約1万年前、最終氷河期が終わりかけたころ、ヒトは栽培あるいは飼育という食料の獲得手段を発明します。
タネをまいて収穫する。
収穫した一部をタネとして再生産に利用する。
動物に子どもを生ませ、育てる。
一部を残して、子どもを生ませ、増やす。
狩猟採取時代には、自然に「ある」ものをそのまま採集して食べる。
いわば、その場しのぎの暮らしです。
「みんなで狩りや採取をして、みんなで分ける」――それが基本です。
農耕や牧畜は、違います。
周期的な生産のために、食糧を蓄える。
自分たちが食べるよりも、ほんの少し、余分に生産できる。
すると、その「余分」を預かることで生活する人々が出てきます。
いわば、倉庫番です。
倉庫番の登場――それが、階層分化です。
「一つの社会が食うものと食われるもの、もっと厳密にいえば余剰を生産するものとその余剰によって生活するものに分化した」(今西錦司「人類の進化史」)
今西さんは、そのことを「社会の多層化」と呼んでいます。
2つの階層は、今西錦司さんの用語では、ヒツジと羊飼いにたとえることができます。
ヒツジたちから(できれば自発的に)税を巻き上げる――その仕組みが、クニ(国家)です。
ヒツジたちとヒツジ飼いに分断された社会――農業時代のクニの基本構造です。
人類が農業という生計手段を発明した約1万年前から、産業革命のあった約200年前まで、世界中どこでも、それが、基本的な社会のかたちです。
生産できる余剰が限られていたからです。